招待状

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それは、今まで見たどの手紙よりも分厚い紙で包まれていた。 上等な羊皮紙の手触りに、僕は妙な胸騒ぎを覚える。 物価の高騰もあり、この国は荒んできているのは間違いない。 この辺りはまだ良い方だ。 二つ隣の街など、二度と行きたくないと思わせる程に酷かった。 自給する土地すら無く、整備されていない下水からはネズミが溢れ、女は身体を売って金を稼ぐ。 男はただ、死に物狂いで働く。 上流階級の金の亡者たちは、貧しい人々の物乞いに目もくれず…好みの女を買いあさっていた。 吐き気がする。 至る所に転がる、かつて人だった塊。 腐臭に眉根を顰(ヒソ)める輩はまだ正常だ。 足元の死体を喰い散らかす、親に棄てられた子供たち。 それに関心を持たない大人たち。 狂ってる。 こんな国だからこそ、僕はこの差出人を予想出来た。 豪華な手紙には、複雑な装飾をされた蝋封が堂々と光っている。 差出人の名前は… 【ヘンリー・オールヴァンズ】 この国の女王陛下だ。 心臓が胸を突き破りそうな程に激しく脈を打つ。 口から内臓が転がり出てくるんじゃ無いかとさえ思った。 愕然とし、思考が止まる。 なぜなら…女王陛下に目を付けられた者は『お目付け人』として、一生お城で幽閉されるからだ。 「どうして僕が…」 選ばれてしまったんだろう。
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