招待状

6/10

53人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
テーブルへ戻る僕の足取りが重いので、マリアは変に思ったようだ。 「どうかしたの?」 すでに椅子に腰掛け、不思議そうに首を傾げている。 額に掻いている汗を見られないように袖で少し俯いて、彼女の作った朝食に目をやった。 同時に、思わず溜め息が出そうになる。 幸いなことに、僕が絵を描くとそれが動いたりするもんだから、どこぞの金持ちがお金を落としてくれる。 その金でなんとか生活できる状況だが… このご時世だ。 依頼の数も減ったし、いつまでも絵だけ描いてる訳にもいかないだろう。 目の前にあるポタージュスープはポテトの量が少なくて、具も殆ど無い。 焼かれたパンにも、高価な卵やバターなど入っていない。 はっきり言ってこのままじゃ、マリアを幸せにすることは愚か…路頭に迷わせる事になりかねない。 女王陛下の傍へお仕えすれば、マリアの下に僕の給金が入る。 もちろん僕は幽閉されているわけだから、食には不自由しないで済む… 「バース?どこか具合でも悪いの?」 そこまで考えた所で、マリアの怪訝そうな顔が視界に飛び込んできた。 どんな顔をしていたのか自分では分からないが、よっぽど暗かったんだろう。 慌てて笑顔を作る。 「いや…うん、ちょっと寝ぼけてた!ごめんごめん!」 言わないでおこう。 彼女には心配なんてさせたくない。 僕は、マリアと離れてなんて暮らしていけない。 「…そう。早く食べないと、神父様の所に間に合わないわよ」 彼女は明るくそう言うと、僕のカップに少し薄めたミルクを注いだ。 あ~…働き口でも探そうか… 色んな思いを頭の隅に追いやり、僕等はいつもの様に笑い合って朝食を食べた。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加