柳我 幸 - ユウガサチ

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一方、厨房に戻っていたリクは料理の準備をせず、野菜などを切る台であろうところに皿をおく。 そして親指、中指を重ね、 親指を滑らし音を鳴らす。 すると、確かにさっきまでは皿には何もなかった…。 いや、あるはずがない。 だが今では物体がある。 食欲を漂わせる匂い。 寒い時につい、食べたくなるような暖かい湯気。 綺麗に飾られた、物体。 「上出来だ…。」 リクはそう呟くと、物体が乗った皿を手にのせ、女のテーブルへと持っていく。 するとどうだろう。 さっきまで考え事をしていた真剣な顔つきから目を輝かせ、口を開け、匂いを嗅ぎだした。 その光景はまさに、レストランで出来たてのハンバーグを店員が持ってき、それを美味しそうに眺める子供のようだ。
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