空の器

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「どうだった?」 「あらら、何が気になるので?」 「決まってるでしょ。朱零の様子。覺には程遠いけど。」 「妙だな。」 「?」 「覺に総じて起こる赤眼。あいつの視界はもう真っ赤だぞ。」 「赤眼って、それじゃ順序が逆…」 「順当にいくはずないだろう。」 「どういうこと?」 「つまりは、異端者の発現に理はあらずってやつだな。」 「そんな…これじゃ天空の歪みが…」 「封じればいいってわけじゃない。」 「今は閉じないと全てが水の泡になるのよ。」 「今までそうやって、死因も事件性もない被害者が群れをなしてきた。今回も同じ手段をとるつもりか?」 「…。」 「あいつの器。今はからっぽだ。大器に並々と注ぎ込めばいいってもんでもない。たった一滴でいい。それであいつは変わる。」 「上手く変わる確率は?」 「ないに等しいな。」 「その一滴は誰が?」 「誰でもない。」 「…まさか…。」 「赤眼を宿した時点で、全てが定まる。後は…」 「朱零の思うがまま。」 「人の理性には限界が付き物だ。でなけりゃ、俺達はこうも頭をかかえちゃいない。」 「空の器、赤眼、そして…」 「盲人の竪琴。残すは後一つだ。」 「傀儡は?どこにいるの?」 「まだ帰還の祝詞は来ていない。全く、どうにも身勝手が治ってないな。」 「…」 「なんだ?全部お前が望んだ事だろう?」 「望んだわ。」 「そうまでして長にこだわるのか?人命を天秤の片腕にかけるほど、今お前が手にしている物は貴いのか?」 「あなたにはわからないでしょうね。」 「あぁ、不可解だな。」 「それでいいのよ。」 「なぜ?」 「私達はそういうふうに出来てるんだから。」
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