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「しかして神は産まれた。けどそれは本当の神ではなかった。」
七海の言わんとしている事は渚にも分かった。
「人の手から神様が産まれるなんて本末転倒。不完全さから完全は産まれない。目覚めた神様は、皆ギリシャ神話みたいな人間に近しい神様。」
「それで?なりぞこないの超能力者はどうなった?」
「封じられたわ。その鼓動もろとも。」
「そりゃ違いない。」
「それで良かったのよ。この国が滅びずにすんだ。おかげで私達には母国がある。」
七海は写真の左脇、老人の面影が色濃い青年を指した。
「ただ一人の例外を除いてはね。」
「例外?」
「いたのよ。」
伏し目を渚に向け、七海はありえない事を口にした。
「神が。」
「待てよ。さっき神は…」
「ええ。けれど彼は生き残った。」
だが写真の人物はすっかり周りと溶け込み、寧ろ凡人としての印象が強かった。
「…」
そう思って外しかけた視線に、何かが引っ掛かった。
蒼い痣。首元の深みのある印。
「そう。」
硬直した渚に七海は言った。 「だから私はここにいる。」
「神だと?」
「そうね。」
「理屈はわかる。けど人に人外の力は獲られない。」
「どうかしら?」
と七海は右手人差し指を突き付ける。
「私からしたら、この星なんてこれ一つで充分よ。勿論、貴方もその例外じゃないわ。」
眉間が烈火の如く熱い。焦げ付く感覚に冷や汗が一筋流れた。
「なら…」
渚はその指を掴んだ。
紛れも無く、煙りが立つ。
「俺をこんなにしたのはなぜだ?」
「貴方も神よ。」
「っ!?」
「残念だけど、私と同類。そして…」
渚の手をそのまま引き寄せ、小さく口づけをする。
「貴方が願えば、太陽系なんて一瞬で消える。」
「誰がするか。」
「でしょ?私も同じよ。」
「ならなぜだ?俺を巻き込んで何をするつもりだ?」
「まだ言えないわ。」
「まだ?これ以上不躾に引っ掻き回されるのはごめんだぞ。」
「私が言える事は…」
七海はもう一度口付けを渚の手に与え、両手でその手を包み込んだ。
「いつどこで何があっても、自分を消さないで。」
その意味を探ろうとして、渚は口を開きかけた。
そして渚は黒い穴に落とされた。急落下する瞬間、七海の表情が激しく変形していたように渚には見えた。
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