よそよそしい殺意

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起床して始めに気が付いた事。 体の髄まで痺れる赤の深さだった。 七海に迫ったあの夜。渚は穴に落とされ、どういうわけか具合よく自室のベッドに背中を打った。 それだけなら七海の不思議な力のせいだろうが、一つだけ不審な点があった。 そう。 なぜこの場所が送り先なのか。 七海に教えてもいない自宅へ、能力の持ち主が仮に念じたとしても無理である。 それなら理由は一つだけしかない。 渚は指輪を見て確信した。もう他に考えられる原因がなかった。 もう無理矢理に外す気は起きなかった。結局の所、指輪は殆ど輪郭を指に埋まっていた。 「もうどうでもいいな。」 袖を通す制服や、ポケットから取り出す定期券や、昇降口で履く上履きと大差ない日常的しがらみでしかない。 「おす。」 無人の教室では白井がなぜかいた。 「早いな。改心してくれて、お父さんは嬉しいぞ。」 「おはよう。朝の挨拶くらい、その悪態何とかしろよ。」 「無理言うなよ。これ、俺の生命線。」 「お前だって、時間外だろ、今。」 「まぁそれはだな…」 白井はニタリと笑い、指を鳴らした。 「お前にぜひ会わせたくてな。」 黒目が豆粒になりそうだった。そこにはネズミがいたからだ。 「うむ。どうやら厄は完遂したようだな。快諾したのか、諦めたのかは今更どうでもいい。」 「傀儡…てめぇ。」 「うぬ?にしては赤眼の深みが強い。青囮。」 「なんすか?」 「お前の報告と食い違うではないか。なぜこうまで進行が早い。」 「しらないっすよ。」 白井はそっぽを向いて、肩に乗る傀儡をつまみ渚に差し出した。 「後はご自身で確認したら如何ですか?」 渚はじたばたする傀儡を同じくつまみしばらく睨みつけた。 「そういう憎らしい顔は母親ゆずりだの。」 「!?」 指先が滑る。信じがたい事実に渚は動揺した。 「おまえさん、母親はおらんだろう。」 「待てよ…それ…」 「父親にはなんと言われた?離縁したと?」 「…」 「信じろとは言わん。だが長から少なからず聞かされた事実と、今のおまえさんの置かれている状況を考慮に入れれば、自ずと母親の素性も知れよう。」 「俺の母親が神だっていうのか。」 「神?」 傀儡は首と手を振り、殊更に否定する。 「おまえさんそれは勘違いだ。確かに先々代の意向はそうだが、今やその役割は意味をなさん。」 「どちらにしても、そういう存在だったんだろ?」 「力は幸、不幸を問わず影響を与える。」
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