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「馬鹿っ。んなことできっかよ!」
「いかん。防御はお前さんには向かん。」
向き不向きをつかれて、渚は黙ってしまった。
「戦えばそれなりになれるだろう。問題はどう攻めるかだ。」
影が続々と窓に群がる。
「簡単に言うけど、ホントに重いんだぞこれ。」
「死にたいか?」
死ぬことに執着がない渚は首を振った。
「ならば戦え。幸いな事に、お前さんは怨が濃い。」
聞き返そうとする渚へ、影が突っ込んでくる。
「…。」
足がすくんだ。
距離をよせてくる影に、渚の四肢は突然力を失った。刀が手元から零れそうになり、喪失感からの焦りがほとばしった。
太刀を握りしめ体を捩り回す。
風が舞い上がり、影が天井に吹っ飛んだ。落ちてくる影を、渚は無意識に太刀で突き通す。
悲痛な声もなく、息絶えた影を渚は床にたたき落とす。
一連の豹変に影も白井も傀儡も動きを止めた。だか多勢の機を逸しまいと、影は白井を放り出し、渚に狙いを定めた。
時間差を作り、影は個々に距離を空けながら接近してくる。
渚は思った。
皆、自分勝手だと。
一人目。
跳躍し頭上を取られるも、後退し合間を取ってひと突き。
二人目。
側面から狙われた脇を払い、太刀の腹で首筋を叩く。
三人目。
背後から振り下ろされる剣を風で薙ぎ、振り向き様に太刀が駆け抜ける。
四人目。
戦意のない影に向かって突っ込む。
刃の切っ先を喉元へ…
「よく聞け。」
見えない顔に向け渚の目は瞬きもせず続ける。
「俺をやるなら、舞台を用意しろ。俺が満足できるほどのな。」
影は唸り、威嚇する。
それを渚は鼻で笑う。
「お前達が何者かなんてどうでもいい。目的など尚更聞く気はない。」
喉に刃先を埋める。
「俺を楽しませろ。一緒に踊り狂って、華やかに散れ。俺の為にな。」
渚は卑猥な笑い声と共に、影の喉を掴み窓の外へ放り投げた。
「白井。」
呆然とする白井は視点を渚に戻す。
「これでも隠すつもりか?」
「…」
「傀儡。」
「なんだ?」
分の悪い返事に渚は何か重大な含みを感じた。
「お前の役目は俺を兵器にする事か?」
傀儡は目を閉じ、俯いた。
「ならいい。おまえらは信じない。」
「それでも構わん。」
傀儡は重々しく返した。
「だが長は、長だけは…」
「聞こえなかったのか?」
渚は太刀を床に落とし言った。
「信じない。全員だ。」
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