体育館裏で…

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半円の物体に飛び掛かり、豊満な怒りをぶつけながらひんむくと、掌ほどの大きさの円盤が姿を現す。 銅盤のようにも見えたが、渚には愛でる余裕もなく、フェンスめがけて投げ付けた。円盤は粉々に砕け、中心から光が舞い上がった。 目を当てる暇もなく、渚は光に包まれ、その時初めて渚は後悔した。 嫌な予感というやつが、今更訪れても、手遅れだった。 「光ってさ。」 厚かましいほどの眩しさの中で声がした。とはいってもまだ幼い少年の声。 「ほんと、暑苦しいよね。」 渚は自分の体が全く色を失っている事に気付いた。 「こんなに眩しいと、どこにいるのかわかんないし、どこに行ったらいいかわかんないし、そもそも何をすればいいのかも見当がつかない。」 少年の声は耳元で虫の羽ばたくように不快だった。 「だから暗がりは必要。そう思わない?」 何が起きた?今何が起こってる? 少なくともリアルじゃない。現実的になろうとすればするほど、渚は自分の感覚に頼ろうとする。 「駄目だよ。ここは君の世界じゃない。」 「っ!?」 「君は今までに見たことも、感じたこともない世界に迷い込んだんだ。皆忘れてしまった世界。明日になれば皆忘れる。今日が昨日になるのは、人が昨日っていう枠組みを作って、何もかも済んだ事にしたいから。」 少年の笑みが見えるような沈黙の後、確かに少年は笑った。 「まぁ皆忘れたいもんね。でなきゃ、時の歪みには堪えられない。時空と闘い続けて、でた答えが非暴力不服従なんだから、こりゃ大層お粗末なもんだよ。」 渚の身体はもはやなすがまま、されるがままに異空間で漂う。 少年の言葉の意図する先の事など始めから頭になかった。 とにかく帰って横になりたい。横になって、今日と昨日と明日をないまぜにして片付けたかった。 「でもね。人はいつからか脆弱な意志に自らの首を締める。都合よく渡り歩いていたつもりがいつの間にか時に隷属していた事に気付くのさ。」 少年の言葉遣いは難解で、時に嫌気がするほど婉曲されていた。そこで渚はその流れに小石を投げ込む。 「お前、何がしたいんだよ。」 「何がしたい?」 少年は小石にも動じず、投げ返す。 「それはこっちの台詞さ。君は何をしたいのさ?」
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