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何をしたい?帰りたいよ。猛烈にな。
渚はそう思った。だとしたらすぐに言い返せたはず。
「…。」
「ほらみろ。何も思い付かないんだろ?何もしたくない。何もなきゃいい。望む物はいくらでも転がってる。大体、君は君自身が何物で何を成しえるかなんて考えちゃいない。」
なぜ戸惑う?なぜ躊躇う?
渚は一度口を閉じて考えた。これが全部現実だとして、昨日までの事も全部そうだとして、分かっている事は一つだ。
今ここに自由はない。
「まぁ、そんな所だと思うよ。それに君にはそうあってほしかったんだ。」
「な…。」
やっとの思いで出たのは、喘ぎにも似た声。
「面白い事になってきたよ。やっぱりそうでなくちゃね。」 白熱のような空間から、一斉に朱い斑点が浮かび上がる。 血が滴るが如く広がり、朱は光を喰らって紅へと深くなっていった。
「さ、一つ聞いておくよ。」
機嫌がいいのか、渚の身体を降ろす。頭のてっぺんから小物が当たり、転々と渚の前に現れる。
「今君の指には何もないね?」
首が重々しく傾く。
「それと目の前にある物が、何だか解るね?」
「指輪。」
「よし。厄は繋がれた。」
指輪は浮かび、一瞬の煌めきを残して渚の左手、その薬指に付着した。
「君はもう何にも縛られはしない。その指輪が一切の楔を請け負った。後は君がその力を如何様に行使するか。これから起きる事柄に、どう立ち向かうか。全てはその一点にのみ集約される。」
目の前に、赤毛の童子が現れるが、その容姿はすぐに霞んでいく。
「君にはその器がある。だからこれから起こる事柄に注意深くあれ。」
そして渚は落とされた。落ちていく感覚は確かだけど、到達する先が全く見えない。
そしてついに…
「んがっ!」
戻された。
俯せに倒れた渚の右足には、隆起する根がかけられていた。 起き上がり泥をはたいていると口角がぴりぴり痛んだ。
身体の節々にはしる傷みもそのままで、全て元通りにされていた。
ただ一つ違う事と言えば、時折締め付ける小振りな指輪の余分な感覚だった。
そうして見定める先の景色に愕然とした。
映るもの全ての紅さに。
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