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なんでもかんでもうまくいく世界。
私はそういうの大嫌い。
一人の成功の下に、十人の不幸があって、十人の不幸の下に百人の悪夢がかさ張る。
一概にそうだと言いきれないけど、私が生きているということは、私以外の多数がいて、皆その多数と繋がっている。
いつも見上げていたあの鉄塔に、私はいつしか昇った。そして気が付いてしまう。
本当は気付かなくてよかったのに、気付くべきじゃなかったのに、私は世界の縮図とやらが見えてしまった。
ここには何もないって事。
とてつもなく悲しい世界しかないとして、そこに自分の居場所はあるのだろうかと、七海は鉄塔から思いを巡らせた。
だがそう簡単に見つかるわけはなく、そうやって限定してしまう発想に呆れてしまう。
あるかないかではなく、取るか取らないかなのだ。
七海は骨組みの上に立ち、風を受けた。
「長。」
「その呼び名はやめてと言ったはずよ。」
傍らには背の丸い仮面の男がかしづいていた。
「ですがそれでは長の…」
「もういいわ。それで?首尾は?」
「は、思っていたより強情で…」
「私が行かないと収まらないのね。」
「御意。」
ついた溜息は外気より重く落ちていく。
かの堯は何かにつけ街を不穏にさせている。傘下にある分家達も是非を問う問わないに関わらず堯に従うしかない。
長々とその座を空けていた長の地位に返り咲きたい彼等にとって、取るべき手段は手持ちの庭にぼやを起こす事ぐらい。
だが、それが波及し周辺住民に影響させるのが彼等の本意とする所だろう。
後始末はいつも押し付けられる。
七海は両腕を広げ、鉄塔から飛んだ。
着地寸前で手を地に向け押し出し、悠然と足を付けた。
「それから、朱零は?目覚めたかしら?」
「厄は結ばれました。ですがまだ覺には至っておりません。」
「困るわね。早く加わってもらわないと。」
顔を上げる。
黒服を纏った集団が辺りを囲う。
右手に消音銃、左手に短刀。
「長、ここは私に…」
「下がりなさい。」
その一言で仮面は退きかしづく。
「出迎えなら、応じるが習わし。」
制服の両袖から蔦のような触手が唸る。
「我が首を撃つその意、よく覚えておきます。」
七海は宙を舞う。
骸を土へ返す為に。
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