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喉痛い。空咳がでる。
なんか、だるい。
「山内さんがだるいのはいつもの事でしょうに」
……そりゃあ、そうなんだけど。
鋭くて辛口な澤地さんの指摘に背筋を寒くする。彼女は書類を抱え、俺の数少ない机のスペースに置いた。
「この分だけ、やっておいて下さい」
「澤地さん、物言いが怖いよ。どうしちゃったのさ」
いえ別に、と素っ気ない口調で仕事に戻る。パソコンを見つめる彼女の目は、いつもより少し強ばっていた。
まあ理由は、彼女の相手から先日聞いたんだけどね。少しやりすぎたか。
書類に手を伸ばしかけた時、不意に近くの時計に目がいった。
そろそろ昼時らしい。
「澤地さん。いつもの頼んどくね。見切りのいいとこで切り上げて」
ざっと書類に目を通した俺は、澤地さんの後ろを通って、電話の短縮ダイヤルをとった。
「ども、山内探偵事務所っす。チャーハン一丁お願いしますね」
その横で澤地さんはキャットフードの袋と皿を見繕い、暑いのに窓を開け放って、いつも来る彼女を待っていた。
と、事務所の戸が外の騒がしい音を連れて開いた。若々しさ満々の男が熱気をバックに声を張り上げる。
「ういっす、山内所長!」
「暑いからしめなよ」
「由紀恵は窓開けてんのにっすか?」
「澤地さんは別でしょうに」
ちぇっ俺だけ邪険扱いっすか、と文句を垂れながらも、才谷は足で事務所の戸を閉める。
「静かに閉めてよ。ユキが来なかったらどうするの」
「悪い悪い。そんなに怒んなよ、由紀恵」
さして悪びれもなくへらへらと笑う才谷を、彼女はひしと睨みつける。
「……おう、今日はやけに機嫌悪いらしいな。谷島となんかあったか?」
彼女は目を伏せ、そっぽ向いて窓の外を眺める。
そんなやりとりを尻目に、いつものシャム猫が窓から飛び込んできた。
澤地さんは、今までの機嫌の悪さが嘘のように笑顔で、ユキユキ、いい子ね、と服が汚れるのも気にせず、シャム猫を抱えて笑顔を見せた。
「なあ、俊。昼飯食ったか?」
「少しつまみましたよ」
「そうか。んじゃ、上地さんの旦那の調査行くか」
「えっ、ちょ待っ……」
困惑する彼を引き連れて、俺は半ば強引に才谷を連れ出した。
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