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くくっ、と腹の底から笑いが込み上げる。
「私の髪がそんなに好きか」
「...別に」
「そうか。なら、明日からはタカ丸に梳いて貰う事にする」
言えば、文次郎は、え、と視線をこちらに向けた。
その顔が余りにも間抜けで、私は本格的に彼を苛める事を決意した。
「別に好きでない物の面倒など、わざわざ看なくて良いのだぞ。それに比べて、タカ丸は私の髪を甚く気に入ってる様だったし、本職が髪結いだから痛んだ毛もしっかり始末してくれるしな」
淡々と言葉を並べて、仕舞には
「そうだ、今日梳いてくれたのに礼を言うのをすっかり忘れていた。ついでに明日から結って貰えるよう頼んでくる」
文次郎の寝巻きから手を引いて、立ち上がる。
扉を開けて
「先に寝ていろ」
と彼に言うと、そのまま部屋を出た。
あの文次郎の顔は。
まるで捨てられた子犬だ。
大きな目を見開いて、口を半開きにし、何か言いたげな。
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