9/11
前へ
/101ページ
次へ
昔から文次郎を苛めるのが好きだった。 それ以上に楽しいと思える事がないぐらいに。 半場自分の趣味になっている「文次郎苛め」は早6年目に突入し、年々過激になっている気がしないでもないのに、彼はいつも私と一緒だった。 何度口で嫌だと言っても、虐めが本で喧嘩になっても、私の隣には彼が居た。 勿論、本気でこの先タカ丸に髪を結わせる気は毛頭無い。 私は、あの、髪を梳く時の文次郎の手を気に入っている。 その手に触って貰えなくなったら、なんて考えるだけでも嫌だと言うのに。 扉の向こうで文次郎が動く気配を感じた。 暫しの間だけ放っておいて、扉を開くと 「...文次郎」 彼は自分の布団を敷いて、その中に潜っていた。 小さく、すすり泣く声。 苛めて、彼を怒らせる事が好きだ。 彼を啼かすのも好きだが、どうも私は泣かれるのが苦手だった。 尤も、気丈な彼は滅多に「泣く」という事はしなかったが。 こうなると苛めはお仕舞い。 「文次郎」 優しく声を掛け、布団を剥がす。 文次郎はやはり泣いていた。 大きな瞳からぼろぼろと涙を流して、嗚咽を繰り返している。 「すまない、悪かった。私も虫の居所が悪かったんだ。許せ、文次郎」
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!

189人が本棚に入れています
本棚に追加