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昔から文次郎を苛めるのが好きだった。
それ以上に楽しいと思える事がないぐらいに。
半場自分の趣味になっている「文次郎苛め」は早6年目に突入し、年々過激になっている気がしないでもないのに、彼はいつも私と一緒だった。
何度口で嫌だと言っても、虐めが本で喧嘩になっても、私の隣には彼が居た。
勿論、本気でこの先タカ丸に髪を結わせる気は毛頭無い。
私は、あの、髪を梳く時の文次郎の手を気に入っている。
その手に触って貰えなくなったら、なんて考えるだけでも嫌だと言うのに。
扉の向こうで文次郎が動く気配を感じた。
暫しの間だけ放っておいて、扉を開くと
「...文次郎」
彼は自分の布団を敷いて、その中に潜っていた。
小さく、すすり泣く声。
苛めて、彼を怒らせる事が好きだ。
彼を啼かすのも好きだが、どうも私は泣かれるのが苦手だった。
尤も、気丈な彼は滅多に「泣く」という事はしなかったが。
こうなると苛めはお仕舞い。
「文次郎」
優しく声を掛け、布団を剥がす。
文次郎はやはり泣いていた。
大きな瞳からぼろぼろと涙を流して、嗚咽を繰り返している。
「すまない、悪かった。私も虫の居所が悪かったんだ。許せ、文次郎」
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