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ある日、いつもの様に後ろから「滝夜叉丸」と呼ばれて、私は「何ですか」と声の主に向き合った。
2年生の忍玉長屋の廊下だが、流石に疑問詞を浮かべて振り向く事はもう無い。
声の主は、やっぱり、七松先輩だった。
2年生の長屋に4年生がいる事も結構不思議だが、七松先輩は結構神出鬼没なので何処で声を掛けられても特に驚かない。
ただその日はいつもと違っていた。
七松先輩の隣に知らない人が二人立っている。
七松先輩はニコニコと笑いながら言った。
「な、可愛いだろー」
「本当だな。顔だけ見たらまるで少女みたいだ」
七松先輩の右隣に立っている人が、まじまじと私の顔を見ながら言った。
この人は知っている。
確か、潮江...文次郎先輩だ。
以前行われた学園長突然の思い付き自由参加型武道大会に参加していた記憶がある。
「滝夜叉丸が可愛いなら、仙蔵は綺麗だよね」
「そうか?」
「うん、仙蔵は綺麗」
仙蔵、と呼ばれたのは左側の人らしい。
色白の肌、少しキツめの凛とした瞳。
黒くて長い美しい髪の毛が、顔を揺らすたびさらさらと流れる。
確かに、美意識の高い私から見ても美しい人だった。
何故だろう、唐突に、負けた、と思った。
回転の早い頭が瞬時に理解した。
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