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そうだ、この顔はこの前の新聞で見た顔だ。
「……だったらなんだよ」
ぼそり。
血を這うように低い声。
「猫の国に突き出すか?」
猫はわざと挑発的な言い方してくる。
今度はオレがはっと鼻で笑った。
「誰がそんなに面倒臭いことをするか」
オレは猫の傷に消毒液を勢い良くぶっかけた。
「ってぇ!!」
「我慢しろ」
暴れる猫を尻目に、オレは傷口の血を拭って包帯を巻いた。
「てめー治療するならもう少し優しくしやがれ!」
「お前が何だろうとオレには関係ない」
他の傷にも消毒液をかける。
「手当てを望んでこの事務所を訪れたのなら、お前は依頼人だ」
包帯が足りなくなってまた戸棚の方に戻った。
「……なぁ」
ふいに声をかけられて振り返った。
「何だ?」
「俺様をここで雇う気ねえか?」
「……ふっ」
頼みごとの割に俺様か。
どこまでも態度のでかい猫だ。
しかし、それはそれで面白い。
「おい、お前。名は?」
「………ムタ」
例えそれが本名でなくともいいだろう。
「バロンだ」
改めて、よろしく。
互いに手を握り合った。
本日より、猫の事務所。
従業員+1名。
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