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《平成1X年4月X3日》
雨は、強くなる一方であった。桜は、一人でトボトボと渋谷の街を歩いていた。
桜「…なんか、義人さん。すごく辛そうな顔してた…あぁ~五木なんかのお薦め、聞くべきじゃなかったかなぁ~こんなのが原因で気まずくなったら、嫌だなぁ…明日、電話しよう」
ざっざっざっ…
後ろから、足音が近づいて来た。
桜は振り向いた。そこには、スーツ姿の優しそうな顔をした男が立っていた。
男「すいません…ちょっとお聞きしたいんですが…」
桜「…なんですか?」
男「ここは…どこですか?ってか、今、昭和何年、何月何日?」
桜「ここは、渋谷ですよ?しかも、今は平成だし…」
男は、笑顔で言った。
男「いや~、君は優しい娘だなぁ…何人かに尋ねたけど、みんな酔っ払い扱いで、相手にしてくれなくってねぇ…君みたいな娘とは…遊びたくなる」
十分に距離はあった。桜は、足にも自信があった。少し離れているが、周りにも人がいる…
桜「すいませんけど、私、急ぎますので…」
桜は、男に背を向け走ろうと思った。
チクッ
首元に痛みを感じた。桜の身体が、思うように動かなくなった。
チクッ
また、痛みを感じた。今度は、声がでなくなった。
桜(何!?何が起こっているの!?)
男は、桜の手を掴み、歩きだした。身体が言うことを聞かない桜は、そのまま引っ張られるように連れられていった。
桜(足が、勝手に動く…何なの!?恐い…恐いよ…)
男「あ~、そんなに恐がる事はないよ~君の身体には、小さく鋭い針が刺さっているんだよ。人間の身体には数多くの《ツボ》があるんだよ。私は、針師でねぇ~特殊な才能があるんだ。針の達人でも知らないような、ツボを微妙な力加減・針の突き刺さる深さ、角度…様々な条件をクリアする事で人の身体の自由を奪う事ができるんだよ。あぁ!まさに芸術。私は天才だ」
歩きながら、男は話続ける。桜は恐怖を感じながらも、表情を変える事すらできない。
男「ん~。この辺に、ホテルとかないのかな?あぁ…君に聞いても、答えられないよね?しかたがないなぁ…あっ、交番あるねぇ。ちょっと聞いてみようかな」
男は交番へ入って行った。
男「すいませ~ん。この辺りに、ホテルあります?彼女、長旅で具合悪くなっちゃって…」
桜(誰か…助けて!!お父さん…お母さん…五木…義人さん…)
桜の思いは、言葉にはならなかった。
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