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あの女がいた。
目の前に反対にねじれた首とニタニタ笑う顔がある。
息がかかりそうな距離なのに何も感じない。
俺の背筋が凍り付いた。
体の毛穴という毛穴から脂汗が噴き出してくる。
そして女はいきなり物凄い形相になってなにか言うのだ。
不自然なほどに口が開いたのを覚えている。
まるで顔の下半分が口になったようだった。
男とも女とも付かない変な声で何かをしゃべっている。だが言葉はうまく聞き取れなかった。
《…マ…ハ…ガウ……アイ…ワ…コダ》
としか聞こえなかった。
そこから後のことはよく覚えていない。気絶したのかもしれない。
気が付いたのは朝だった。
祖父母に話しても信じてもらえず曾祖母の姉にははぐらかされた。
でも廊下にはやっぱりと言うか爪で引っ掻いたような跡が延々と残っている。
証拠とばかりに曾祖母の姉に見せてみるが、この引っ掻いたような跡は曾祖母が子供の時にはすでにあったというばかりだった。
別の日に曾祖母に聞いてみたがやっぱり昔からあるということだった。
あの女は一体なんだったんだろうか。
その年いらい本家に泊まったことはない。
遊びに行ってもなるべく一人にならないようにしている。
昼間でも暗いあの廊下でまたあの女に出会いそうだからだ。
後で考えてみたのだがあの言葉はたぶん。
「オマエハチガウ、アイツハドコダ」
だったんだと思う。
《廊下の向こうから》終
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