【記憶:学びの女神】

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「私の友人も例に漏れず、何人も命を奪われてしまいました。何の力も持っていない私には、彼らを救うことが出来なかった。何度、何度悔やんだことか、何故もっと早く“力”を自覚出来なかったのかと」  過去を振り返っているのだろう彼女の瞳には、己に対する怒り、この世の理不尽に対する無念が、滲み出ている。 「結局、私の故郷は滅んでしまいました。あぁいえ、飢餓ではなく侵攻を受けて、なんですがね」  『侵攻』。その言葉に反応したのは、グランである。彼女の幼き頃と言えば、彼の全盛期に近しい時期。覚えが、あるようだ。 「まさか、貴女の故郷は……」 「はい、聖都“ブリュンヒルデ”ですよ。かつて天使が舞い降り、女神の降り立った地でした」 「あの街は十二年前、突如として現れた“侵略者”を名乗る集団に攻め入られ、一夜にして滅亡した悲劇の都市……生き残りは僅かに数名と言われておりましたが……その一人でしたか」  グランの言葉、アテナの肯定、それらを総合して、二人は答えを導き出す。残念ながら辿り着いたのはユリスだけだが。 「……その話は、昔聞いたことがあります。“侵略者”とは、少数精鋭の魔法使いの集団で、王国の街を次々に攻め滅ぼして行った、最悪の集団だとか」 「その通りだ。最終的に、奴らの根城――国に等しい大きさの――ごと私が壊滅させたのだがな」  一国を滅ぼしたというグランの伝説は、これに由来する。無論、ユリスはそれも知っていた。  レガも、噂程度の話ならば耳に覚えがあり、今の話で知ることが出来た。だが、話はまだ終わっていない。 「まあ、大分話がそれましたが、私がしたいことの説明には、少し話を戻す必要がありますかね」  そう言って彼女は目を伏せる。どこまで話したか、少し思案した後で、アテナはゆっくりと言葉を紡ぎ出す。 「目の前で怯えた目をした友人。振り落とされる処刑斧を、黙って眺めていた親友。それを見ていることしか出来なかった自分。想像出来ますか? ああ、する必要はありませんよ、体験するべきではないことなんですからね」  彼女の言葉から伝わる感情や、読み取れる情景を想像して、拳が自然と握られた。己に当て嵌めてみると、本当に自然とそうなっていた。  想像しなくていい、と言われた所で、想像しないという選択肢は取れない。 .
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