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「――ッ! 冗談じゃねえ、噂の“聖天魔術”を拝めるのは嬉しいが、喰らうのは真っ平御免だ!」
レガに“聖天魔術”と称された光の柱。細長く収縮して行くと、陣に吸い込まれるように消えた。柱に貫かれた天井には、巨大な円穴が出来ている。
穴の開いた天井を見上げ、冷や汗を流したのは、レガでもクロエでもなく、“天使”を喚び出したユリスだった。
「サルファ、城まで破壊しないでくれないか? 城が持たない」
『……ぜんしょ、します』
「……なるべく頼む」
どこか弱気なユリスの言葉に、サルファと呼ばれた“天使”は、幼児を思わせる話し方で答えた。曖昧な答えに、ユリスは不安を抱えることになる。
余裕からだろうか、目の前には敵が居るにも関わらず、ユリスは溜め息を吐きながら目を閉じた。一瞬の隙を突いて、レガは目にも止まらぬ速度で、ユリスの背後に回り込んだ。
「おいおい背中がガラ空きだぜ! ――ゼイッ!」
掛け声と共に、ユリスの肩へと白剣が容赦無く振り下ろされる。だが、鳴り響いたのは甲高い金属音。レガの剣撃は、純白の翼に受け止められている。
「何だこの翼……、滅茶苦茶硬ぇじゃねえか!」
決して手加減などせず、殺気を込めた剣撃にも関わらず、いとも容易く防がれてしまったことに、レガは少なからず動揺していた。今度はその隙を、レガば突かれてしまった。
『ほーりーふぇざー』
「しまっ……!」
「させない。
水よ、壁となれ!
アクアウォール!」
サルファの詠唱と同時に、羽が淡い光を帯て行く。動揺からか、反応が遅れてしまったレガは、頭だけでも守ろうと、腕を交差して顔の前で構える。
光の収束した羽は、高速で飛来する弾丸となり、次々にレガへと襲い掛る。だが、全ての羽が地面より現れた水壁に進行を阻まれ、レガに届くことはなかった。
「サンキュークロエ、助かった」
「気にしないでください。でも、私達一人一人で彼らに勝つことは出来ません。これからは、一人で突っ走らないでくださいね?」
「……分かった、済まねえな」
バックステップにより、レガはサルファから距離を取りながら、クロエの隣へと戻った。軽く会話すると、慎重に現在の状況を分析していく。
――そして、気が付いた。
「ユリスは何処だ!?」
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