【序章:“魔王”】

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 ユリスは伏せていた顔を上げ、レガとクロエを見つめた。  レガの真名はレガリアス・ソルブライト。貴族の中で、最も名のある名家、“三大公爵”が一つ、ソルブライト公爵家の嫡男だ。  貴族は、古に於いて国家に功を成した者の一族へと与えられた、特権階級の名である。  中でも“三大公爵”は、レガやクロエの属する、“クリスタニア王国”を造り上げた指導者の一族であり、特に大きな権力を持っている。  銀色の髪、つり気味の青い瞳を持ち、背中にはユリスと対を為すような白銀の翼を携えている。  ユリスと同じく若く、年の頃はそう変わらないだろう。  彼は“魔王”ユリスと同等の力を持ち、尚且つ立ち向かうことが出来る唯一の人間として、王より“勇者”の称号を与えられていた。  クロエ、彼女の真名はクロエ・ルミナス。“クリスタニア王国”国王の姪である。  クロエは蒼い髪、目はユリスに似て穏やかで、瞳は髪と同じ深い蒼色をしていた。彼女も、年齢は二人と変わらない。  クロエは豊富な知識と並外れた技術により、あまたの魔法を作り出し、その功績を人々に称され、“大賢者”と呼ばれていた。  ※ ※ ※  ユリスは二人と対峙しながら、人々より尊敬され憧れの対象たる彼らを、羨むように目を細める。  だが、すぐに視線は鋭くなり、それだけで命を奪いかねないほどに睨み付けた。  クロエは自らの武器――どこか機械的な弓――を背から取ると、それをユリスに向け構える。  ユリスは臨戦態勢を取る二人を見据えながら、右腕を垂直に伸ばし、まるで空を掴むような仕草をしてみせた。  すると、シンプルだが禍々しい雰囲気を纏い、全てが漆黒に染め上げられた長剣が手に収まる。  互いの準備が整うと、暫しの間その場は沈黙に支配され、互いに隙の探り合いとなっていた。  レガの頬を冷や汗が伝い、顎を滴って落ちた。その音を合図に、レガは掌をユリスに向け構える。 「先手必勝ッ! 喰らえェッ! 光よ、彼の者を貫け! レーザー!」  一瞬の出来事の中、レガの翳す右掌から、直径1m程の円柱状の光線が、ユリスに向け放たれた。 .
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