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「レガ、離れて!」
ユリスの言葉に動揺したレガの耳に、クロエの切羽詰まった声が届く。同時に、数本の矢がユリスへと襲い掛り、ユリスは拮抗を解いて矢を全て弾き落とした。
拮抗が解けると、レガはバックステップを繰り返し、ユリスから距離を取る。
それを見たユリスは左手を軽く振りながら、レガに向かって突き出した。
すると、レガの行使した魔法が何処からともなく現れ、先程よりも若干速いスピードでレガに迫り行く。
「くそがぁ!!」
すぐ側まで迫った光球を咄嗟に身を捩って回避したレガは、先程の魔法を更に収束させた上で行使して、完全に消滅させた。
「……へっ、やっぱりやるな」
レガは頬や背筋を伝う冷や汗を感じ取りつつ、態と軽口を叩いて冷静さを保とうとする。
そうしなければ、数段上の力を持ったユリスに、呑まれてしまいそうだった。
「レガ、クロエ……君達は所詮、その程度なんだ。2対1であれ、私を傷付けられないのだから」
ユリスは冷淡な口調で言い放つと、やれやれと首を左右に振り、深い溜め息を吐く。
「これ以上の戦いは私に無益だ、早急に決着を着けたい」
沈黙するレガ達に目を向けず、淡々と話すユリス。右手を石畳に付けると、ニヤリと口の端を吊り上げた。
「まずはこの私に不利な状況を、平等にさせてもらおうか」
途端、石畳に触れる手を中心にして、仄暗い文字が次々と浮かび上がり、それらが徐々に円陣へと成って行く。
一瞬にして、鈍く輝く陣が出来上がった。それは先程の円陣とは規模の違う、巨大な陣だった。
「おいおい、“ブラックソード”無しで魔法を行使ってな、随分と珍しいじゃねえか」
「仕方があるまい、まだ契約したばかりなんだ」
契約――その一言にレガは眉をひそめ、剣を真っ直ぐに構える。伝う冷や汗を、袖でそっと拭う。
ユリスは立ち上がると、黒剣を陣の中心に突き刺し、そこに掌を翳した。
「我が魂と契約せし天空の守護者よ、我が生命の力を糧として、今此処に降り立たん。
サモン」
ユリスが詠唱を終えると、仄かだった輝きが強烈な光と化して、それは陣より放たれて行く。
レガとクロエは、そのあまりの光に思わず目を閉じたのだった。
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