【序章:“魔王”】

9/16
前へ
/396ページ
次へ
 光は、レガ達の思いの外早くに収まった。彼らは何が起きたかを確かめるべく、慎重に瞼を上げていく。  そして、眼前にて広がる光景に驚愕を露にしながら、大きく目を見開いた。 「驚くのも、無理からぬことだ。私がこんな力まで得ているとは、予想出来る筈もない」  どこか無邪気な、悪戯の上手くいった子供のような笑みを見せるユリス。そこにあるのは、純粋な歓喜のみ。 「そうだろう? “天使”と契約しているとは、君達に予想出来ただろうか。答えは、否だ」  円陣の中心、ユリスの持つ黒剣“ブラックソード”の上、それは存在していた。ユリスは自らが“天使”と称した存在に歩み寄り、その頬を指先で撫でた。  レガの持つ白銀の翼より遥かに神々しい、純白の翼を背に携え、全てが純白の鎧を着けた、人型の人外。微笑みを浮かべた“天使”の顔は、クロエに酷似している。 「私と同じ顔の……“天使”」 「おいおい、まだ未練があったのかよ。“ヒト”を裏切った分際でフザケんなよ?」  ユリスの喚び出した“天使”を見据えて、レガは呆れを表情へと露にする。クロエは動揺のあまり口元を手で覆った。  二人の反応を見て、楽しむかのように微笑むユリス。突き刺した黒剣を引き抜くと、円陣も同時に消えていく。 「彼女がクロエと同じ顔なのは、単なる偶然だ。私自身、これには驚いているよ」  降り立つ“天使”と肩を並べると、ユリスは黒剣を構える。その切っ先は、躊躇うことなくレガの心臓に向けられた。  契約主であるユリスが構えたというのに、臨戦態勢を取る様子を見せない“天使”に警戒しつつ、二人も再度武器を構え、玉座の間は一触即発の状況となる。  訪れる静寂、響くのは城の外で繰り広げられる、戦の怒号のみ。それを破ったのは、レガの足下に現れた、純白の円陣だった。 『ぶれいぶおぶほーりー』  同時に、どこか拙い口調と声で呟かれた魔法の名に戦慄し、格好など気にもせずに、レガは円陣の上から飛び退いた。直ぐ様体勢を整えると、円陣を睨み付ける。  ――瞬間、円陣の現れた場所は光の柱に呑み込まれた。 .
/396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10693人が本棚に入れています
本棚に追加