228人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
冷たい雨に打たれる少年の姿が一つ。
全身血まみれ傷だらけで、泣きながら、両手で少女を抱いている。
艶のある黒髪、楕円形の大きな瞳…少女の眼に光はなかった。白く細い彼女の四肢は、力無く泥濘に投げ出されている。
少年は鋭い歯牙を剥き出しにしながら、涙をこらえ、唸っていた。
「…す…」
小さく呟いた。今は小さく、やがてサナギが蝶になるように、少しずつ、力強く。
だが、それは神秘的でも綺麗なものでは無い。
「コ…す!!」
何度も何度も噛み締めるように、感情を込めて啼く。
「殺す!!!」
最後には、総てを集め、解き放つ。
「殺すッッ!!!!」
大地を打ち付ける雨を吹き飛ばし、少年は天に吼えた。
雄々しく、猛々しく、荒々しく、禍々しく…。
鬼の如く。
こうしてまたこの世に一つ復讐鬼が誕生した。
一人の憐れな復讐鬼の物語が幕を開けた。
最初のコメントを投稿しよう!