30943人が本棚に入れています
本棚に追加
どうしてこんなことになっちまったんだ!
少年ウィルは、真っ暗な通りを駆けながら心の中で吐き捨てた。
だが、その声は誰にも届くことはない。
通りには人っ子一人おらず、ただウィルと、背後から迫り来る追跡者の足音しかなかったのだから。
(どうして――)
息も絶え絶えになりながら、ウィルはか細い声を漏らす。
すると、その時足首に鋭い痛みを感じてウィルは転倒してしまった。
痛みの元に目をやれば、牙の生えた黒い拳大程の大きさの球体がかじりついている。
身の毛のよだつような薄気味悪さを持った、小さな悪魔のようだった。
(――こんなことにっ!)
足首からは、生暖かく不快な鉄の香りの血が流れ出る。
追跡者の足音はすぐ近くまで来ていて、ウィルは自分の死期が近いことを悟った。
(どうし、て……)
まるで走馬灯のように、ウィルの頭の中に今朝からの出来事が駆け巡る。
それは、長い長い一日の記憶であった。
最初のコメントを投稿しよう!