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「――では、試験番号121」
薄暗い大きな講堂に、威厳のある低い声が響いた。
はい、と弱々しい返事をした黒髪の地味な二十歳前後の男が、講堂の中心へと降りていく。
中央では偉そうな中年の男が椅子に腰をかけていて、降りてきた男に何か指示を出し始めた。
それを取り囲むように、他の受験生達は段差の上の座席に座っている。
ある者は興味深そうに、またある者は自分のことで精一杯なのか頭を抱えっぱなしで。
これが毎年恒例の、王立ラティニア魔導院への入学試験の光景であった。
――そう、ここは魔導大国ラティニア。
3つの大国を有するアーサリス大陸の中でも、特に魔導に特化した国である。
そのため、ラティニアでは魔導院に入ることは本人の将来の為だけではなく、家の地位を守る意味もあるとても重要なことだった。
だからこそ、受験生達はこうして血眼になりながら試験官の指示に必死に応えようとしているわけで。
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