Wizard × Master

１．天才クズウィザード現る！

　～Prologue～

轟々と燃え盛る炎、むせかえるような血の臭い。
少年は戸棚の中に隠れて、ひたすらに恐怖からくる身震いをしていた。

戸の隙間から見えるのは、床一面広がる生臭い血液と、タオルにくるまれて転がっている赤ん坊。
赤ん坊は自らの生命を主張するように、大きな大きな泣き声をあげていた。

家が燃え、崩れ落ちようとしている中でも、少年は動こうとはしなかった。
いや、動けなかったと言った方が正しいだろう。
戸の向こうには、家に火を放った張本人である殺人鬼がいるのだから。

やがて、少年は見てしまった。
殺人鬼が、意味を成さない喚き声をあげ続ける赤ん坊を拾い上げるのを。

赤い、ただひたすらに赤い光景。
真っ赤に染まった闇の中で、少年は世界全てを憎しみを持って睨みつけていた。