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間髪入れず飛んでくる葵さんの言葉もその場の状況からして断ることもできず、陽朔はただそのままそこに居続けるよりなかった。
次々と追ってくる仕事に追われて、気付いたときにはもう既に七時近かった。
多分もう沙桐は家を出てしまっているだろう。
しかし店内は相変わらずでとても上がらせてくださいなどとは言いだせる状態ではない。
(どうしよう…)
陽朔が時計と睨めっこをしながら途方に暮れていると、ふいに背後から声を掛けられた。
「陽朔、約束があるんじゃない?」
「葵」
「何時なの?」
「どうして…」
「判るのかって?決まってるじゃない。あなたさっきから時計ばかり気にしてるんだもの。」
「…」
「いいわ、もう少し人が引いたら私から彼女に言ってあげる。だからそれまで、ね。」
「ああ、ありがとう」
また仕事に戻っていった葵に感謝しながらも陽朔はまだ内心気が気ではなかった。
(もう絶対待ってるよな…あいつ)
結局陽朔が解放されたのは時計が九時を過ぎた頃だった。帰りぎわに葵に言われた一言に赤面しながらも、陽朔は駅に向かって全速力で走っていた。
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