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そして、24日。
「いらっしゃいませ。」
ぎこちない手つきで、テーブルに水とお絞りを置く。こんな仕事を陽朔はもう、かれこれ三時間続けていた。
街の商店街の一角に建つ小さなレストラン。
立地条件がいいせいか、それともここの料理のせいなのか客は途切れる事無く入ってくる。
そんなに大きくない店内なので、店員はこの店の主人である葵の友人とコック、それにいつものバイトの人の代わりに駆り出された葵と陽朔だけで…それこそ、こういう類の仕事は初心者の陽朔にとっては目の回るような忙しさであった。
接客というのがどうも苦手な陽朔だったが、時間が経つにつれて仕事にも慣れ、周囲が見渡せる余裕が出てきた。
24日ということもあって、客のなかには家族連れに混ざってカップルも多く見られる。
二人で他愛のないことを楽しげに、そしてどこか幸せそうに語っている彼らをみて、陽朔はふと、沙桐のことを思い出した。
(七時…か…)
時計は長針がやっと三時を指したところである。
(あと、四時間…)
沙桐に逢うまでのその四時間が陽朔にはとても長いもののように感じられた
(久しぶりだからな…)
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