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会ったら何を話そうかなどと考えながら嬉しそうな顔をしている陽朔も、傍から見れば周りのカップル達となんら変わらないシアワセなコイビトの片割れであった。
ランチタイムをすぎて、徐々に客足は途絶え始めた。
「ごめんなさいね一ノ瀬くん、折角のイブなのに。なにか約束あったんじゃない?」
カウンターのなかで溜まった食器を洗いながら、この店の主人、聖子さんがすまなそうに陽朔を見た。
「いえ、大丈夫です。」
「そう?上がったら、なんでも好きなの食べてっていいからね。」
「おいしいのよ。ここの料理。」
客席を片付けていた葵も振り返って話に加わる。
「おいしいから、毎年混むのよ。特にこの日はね」
今年もこれから大変なんじゃないかしら、と彼女は肩を竦めて苦笑いした。
困ったことに、彼女の予感は的中してしまった。
日も傾きはじめた六時近く。
陽朔がそろそろ上がろうかなどと考えていたところに早めのディナーを楽しみに客が次々とやってき始めたのだ。あっという間に店内はランチの時のような目の回る忙しさになってしまった。
「一ノ瀬くん申し訳ないんだけど、もう少し居てもらえる?!」
「えっ…あ、はい…」
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