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誰が言い始めたのだろうか?
昔から私たちが住む団地の近くに幽霊屋敷と呼ばれる小さな二階建てがあった。
傾斜の厳しい、鳴子坂と呼ばれる坂の中原にぽつねんと一軒だけ建てられたその家は、一番高いところで3メートルほどの石垣があり、何故か石垣の上を有刺鉄線が張り巡らされ、侵入者を拒むように家を囲っている。
有刺鉄線の内側には、雑草が生えっぱなしの一切手入れのされていない庭があり、そこには破れたダンボールや投棄されたゴミ、空き缶やペットボトルなんかがそこらかしこに散らばっており、雑然とした雰囲気を漂わせている。
家は瓦屋根のごく普通の二階建てだが、錆びた横引きのシャッターが全部閉じられ、モルタルの壁にはヒビが入っており、よく晴れた昼間でもその一角だけは暗く不気味だ。
私が小学生の時、一度だけシャッターが全部開いている日があった。
その時は学校中がその話題で持ちきりだった。
ところが、私の友人のチイちゃんは、その話題には加わらず、一人教室の隅で怯えていた。
「どうしたの?」と私が聞くとチイちゃんは、私見たの、と答えた。
私、見たの……。
「何を?」
「二階から女の子が私を見下ろしてたの」
「嘘……」
「なになに朝倉」とクラスの男子たちが寄ってきた。
「お前、幽霊見たの?」
「わかんない」
「おいみんな。朝倉が幽霊見たってさ」
クラス中が寄ってくる。どんなどんな? 一気にチイちゃんは話題の中心となった。
チイちゃんは首を振って何も答えない。きっと怖かったのだろう。
「持ち主が帰ってきたのかも」と私は泣きそうなチイちゃんに助け舟を出した。
その答えは現実として的を得ていたようで、不思議盛りの子供たちは一瞬我に返り、勢いがおさまった。
「つまんねぇの」
「幽霊の方が面白いじゃん」
「帰りに見に行ってみようぜ」
「行こう、行こう」
「私は嫌」とチイちゃんは拒絶した。
「朝倉がいないと」
「どの変にいたのか教えてくれなきゃ」
ますますチイちゃんは泣きそうになっている。
「みんな一緒だから怖くないよ」私はチイちゃんを励ました。
ここでかたくなに拒否をしたら彼女は虐められてしまうかもしれない。そう思ったからだ。
「ね? 行こう」
彼女は目に涙をいっぱい溜めながら、こくりとうなずいた。
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