19人が本棚に入れています
本棚に追加
キシャアア!
「ふん。下等種族共が…」
昼でも薄暗い樹海その森の少し開けた場所に一人の少年がいた。
キシャア ギャア!
年の頃まだ十代前半ほどだろうか、幼さの残る声色に小柄な体躯
大きめの外套を羽織りフードを目深に被った、いわゆる旅装束の格好で、首に巻いた赤いスカーフが風に揺れて印象的であった。
そして、少年を囲むようにして佇む影、その数ざっと三十。
ギャア ギャア! グルャアアア!
「やかましい!でっかい蜥蜴の分際で〝この俺様〟に威嚇とはな」
そう、彼は魔物に囲まれていた
魔物の名はリザード、知性は低いが気性が荒く攻撃性が高い。鋭い爪で相手を切り裂き、硬い鱗で身を固めた爬虫類によく似た魔物
しかし、そんな大群に囲まれているにも関わらず、彼は恐怖するどころかなんとも不遜な態度であった
「たわけ共!群れを成せばどうにかなるとでも思ったか!身の程をしれぇ!」
少年の怒りに呼応するように、彼の躰から稲妻が迸り周囲の大気が吹き荒れる。
フードも捲れ、少年の顔が露わになった。黒髪でまだ幼さが残る顔立ちをしているが、その双眸――真紅の瞳には苛烈さと威厳を持ち合わせ、可愛らしさとは無縁の威圧感を産んでいた。
圧倒されたリザードの群れは、一歩後ずさりしたーーが、次の瞬間
ぐうぅぅぅ
なんとも間抜けな音が響いた。
「……。」
「「……。」」
沈黙が落ちた。
猛烈に吹いていた嵐もどこゆく風そして、黒髪の少年はパタリと倒れた
「……おのれ、腹が減っていなければお前らなど」
どうやらさっきのは腹の音だったらしい。
事態を把握して無かったであろうリザード達は、獲物が無力化したのが分かったのか一斉に牙を剥いた。その時、
銀の風が凪いだ
一瞬にしてリザード達の腕が、首が、躰が血飛沫を散らして跳ね飛ばされていた。そして血飛沫を割って、剣を携えた少年が一人飛び込んできた。
「キミ!大丈夫?」
(……人間か?)
倒れていた黒髪の少年は顔を挙げて確認した。
年の頃、十代後半あたり、銀色の髪を後ろに束ね柔和な線の細い印象を受ける顔立ちをしていた。全体的に白を基調とした格好をしている
「リザード達には悪いけど、僕はこの少年に味方するよ」
そして、剣を構え直し宣言した。
「掛かってくるなら容赦はしないから」
最初のコメントを投稿しよう!