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せやけど……それは十日経ったある日
「名を知りたい」
「……教えたら何かあるんですか?」
「何もないけど……」
いつものように名前を聞きに来ているが、今日はなんか悲しいそうな顔してないやろか?
「別にウチに聞かんでも、他の人に聞いたら良いやないですか?」
前から思ってた……それを今、口にしてみる
「……お前の口から聞きたかったんや。……今日でもう最後やけどな」
「……え?」
何?……最後って
「戦(いくさ)へ行くんや……明日から」
「……」
「恥ずかしい話なんやけど、お前をずっと前から俺は見てたんや……名前を口実にほんの少し話せただけで嬉しかった……」
明日から死んでしまうかも知れないところへ行ってしまう……?
「本当は店に入りたいんやけど、そんな金もない……せやけど、良い思い出になったわ」
「……」
「ありがとうな……そいじゃ……」
「……ちょい待ちっ!」
気がついたらあん人の袖を掴んでいた
「……」
「……どうしたん?」
「ウチはな……この店の1番や。そのウチを名前を言わすんなら、戦で手柄を立ててそのお金でウチを指名しんさい!……それまでは教えるつもりはあらしません」
俯いたまま気がついたらべらべらしゃべっていた……
男はなして戦をせないかんのや?
戦で散るなんていうて欲しいない……
「……」
「約束して……また来ると」
涙声してるかもしれん……でもこんな別れ方は嫌や……もう逢えんなんて嫌や……
「……俺の名は三鷹(みたか)っていうんや」
あん人はウチの手を握って口を開いた
「決めた。戦に勝って、手柄立てて……お前に逢いに行く」
「……」
「約束したで、それまで待っててや。ほな」
あん人はそのまま手を離して去って行った……ウチは顔を上げられず、ただ泣くしかなかった
「紅さん、どないしたん?!」
「泣いてしもうて……なにがあったんや??」
「……何でもない……何でもないんよ」
ウチは泣き顔を見られとうないからすぐにその場を離れた
約束したんや……絶対帰って来るって
せやから……ウチは待たないかん
(完)
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