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水瀬(みなせ)
「水瀬(みなせ)……それでやってや……」
私の目の前には床に伏せた女の人がいる……
「姉さん……ウチはこんなんしとうないです……なして……なしてですか?」
ウチの手はするどい包丁を握っていた。床に伏せているのは姉のように慕っていた華桜(かざくら)姉さんや……姉さんは、この店の看板娘やった。落ちる男もたくさんおったし、泣かした男もたくさんおった。そんな姉さんはある日から、体調を崩して床に伏せるようになった
「なして……こんな事……」
「……ごめんな……水瀬には辛いやろけど……ウチにはこれしかないんよ……あんたに頼むしか……」
姉さんはウチに調理場から包丁を持って来させて胸を突いてという……
「嫌です!なして姉さんが死なんといけんのですか?!」
ウチの目は涙で一杯……それに手も震えていた
「水瀬……あんまりでかい声はやめてや……ゴホゴホッ!……みんなに知られるやろ……」
やつれた目……病気で細くなりすぎた体……力が全くない声……
「姉さんの病気や治りますやろ?気をしっかり持ってください……」
姉さんの病気は何か知らんけど……きっと良くなるはずや……そんな弱々しいこと言わんで……
「それは……無理や」
「なしてです?」
姉さんは寝てる状態のまま頭をこっちに向けて言うた
「……この体はもうもたん……それに大事な人にもう逢えんのが分かったからもう良い……」
「え?」
「もうあん人に逢えん…のや…」
姉さんは悲しい表情になって呟いた
「ウチな……遊郭してて初めて好いた人が出来たんや……向こうは遊びやろうがなんやろうが……ウチにはほんまの恋やった……」
姉さんはにこりと微笑むが涙が流れ落ちていた……
「……遊女やっててほんまに良かったと思ったわ……あん人とおってウチ……幸せやったもん……」
「……ほなら、そん人のために生きたら良いやないですか……体やて、姉さんの思い違いかもしれませんやろ?」
そんなに大事なら……その人のためにも早く治ったら良いのに
「……無理や……」
「なしてです?」
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