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お侍さんは頭をあげてこう言うた
「説明すると長くなるんだがな……ここへ来たのは他に来ている仲間が無理矢理私を連れて来たからなのだ。私はこのような所はよくわからないが店へ入った瞬間後悔した。しかし、すぐには出られん。私には許婚がいる……好いた女がいるのに他の女を相手にするのは出来ない。無理なのは分かっている……が、どうか頼まれてくれないだろうか?」
困った顔が真面目な顔に変わったような気がした。嘘はついてないみたいや
「本当に……長い説明ですね」
「すまない」
本当やったらそういうお客さんはその気にさせなあかんのやろうけど……無理強いなんか私、やり方知らんし……それに
「分かりました。本当だったら良くないことですが、お侍さんが私と寝てしまったっしたらきっと切腹なさる気でしょう?」
真面目な人やし、一途な人なんやろうから切腹するやろな
「……まぁそうなるな」
ほらな
「そうなったら私は笑い者になってしまうか、その許婚さんに恨まれてしまいます。私はこの店の名に泥を塗りたくはないですから、言う通りにいたしましょう」
下働きしよった時にたくさんの男の人を見て来たけど、こん人なような真っ直ぐな目をした人を見たことがない
「本当にすまない」
「かまいません。しかしお侍さん、今日の事が許婚さんにバレたらどうするのです?」
「それは大丈夫だ。皆、秘密にして来ているからな」
本当にうまくいくかどうか……
「そうですか」
「ああ、心配してくれてありがとう。えっと……名前はなんだったかな?」
「雨音(あまね)……初めに言いましたよ」
「すまない……緊張してて聞いてなかった。そうか、雨音というのか……私の名前にも雨の字が入っていてな、時と雨と書いて時雨(しぐれ)と言う。今夜は雨だし何かの縁なんだろうかな?」
縁か……面白いことをいう人やわ
「そうかもしれませんけど、お侍さんはもうここには来ないでしょう?」」
「おお、そうだった」
お侍さんが苦笑したのが分かった。今夜の事はお侍さんが間違えて遊郭へ来ただけなんや……もうへまはせんやろ
私達は朝までいろんな話をした。そして朝には雨が上がっていてお侍さんは「本当にありがとう」というて帰っていきやった……
月日は流れていってしもうたけど……お侍さんはあれきり来る事はなかったけど……
私は雨を見る度、時雨様を思い出すんよ
(完)
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