5人が本棚に入れています
本棚に追加
しばらくは気が抜けとった。お客さんやみんなの前では気丈にしよったけど……寝てしもても、夜中に目が覚めて一人で泣く事が多かった
そんな時や
「月夜さん、ちょっとええ?」
「何?」
顔の化粧落とした時、声かけられた
「悪いんやけど……あんたに逢いたい言うてお客さん来とるんやけど」
ウチは早ぅ寝たいんや……
「どんな客なん?」
「ちょくちょく来よったあの優しげなお侍さんや」
……少し前から来よらんかったのになんで今更?
「分かったわ。今から行くけん」
素顔でもあん人は何も言わんやろ……ウチは自分の部屋を出ていった
「失礼します……月夜です」
一応声かけた……どうせ聞きよらんやろうけど
「……」
相変わらず窓から空をみよるんやね
「また月を見よるん?」
傍に座って言うてみた
「ああ、最近月がどうも悲しそうにしよるけんな……」
「月が?」
優しく眺めながらお侍さんは続けた
「そうや……月夜が泣いとるように見えたんや。仕事も手に付かんかったから来てしもた……何かあったやろ?」
ウチの方に振り向いて、お侍さんは問う。しかし、ウチはそれをはぐらかそうとした
「何を言うん?ウチが泣く訳ないやろ?」
「嘘はあかん。言うてみ」
「嘘なんか……」
「月夜」
優しい顔して名前を呼ぶけど……“ちゃんと言え”と言うてるように聞こえた
そやけん……そやけんウチは……
「……ウチは罰が降ったんやね」
「どうしてそう思う?」
「……こんな所おるけん……大事なもん……殺してしもた」
俯いて呟くようにウチは続けた
「誰の子供や知らんけど産みたかったんや……そやけど……無理な相談やって言うて……」
薬飲まされて殺してしもうた
「……そうか」
涙が流れとる……化粧してなくて良かったわ
「……」
「月夜は良い女やなぁ。それに月夜から産まれるはずやった子供も幸せ者や」
「……どうしてなん?」
「子供に対してこんなに想ってるからや」
ウチの片手をまたそっと握ってそう言うた
「月夜、今日はたくさん泣くんや。泣いてその後は泣くなや」
「……」
「そしたら子供は安心して成仏するやろ。今日だけは泣き」
「……ううっ……うぁぁぁ」
私は泣きじゃくった。赤ん坊の事を想って……ごめんなさい……本当にごめんなさい……明日は笑うから……今日は泣かしてや
私が泣いてる間、あん人はずっと傍におってくれはった……
ありがとう
(完)
最初のコメントを投稿しよう!