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「会いたいなら、言えよ。」
「え…」
答えるように、自分はどこにも行かないと言い聞かせるように…抱き締めている奏の腕を掴む。
「つか、会いに来いよ。別に…今は迷惑なんて思ってねぇし。」
それは精一杯の譲歩。本当は会いたいのに、素直になれない自分の譲った結果。
その言葉が[会いたい]と直接口にするよりも相手の心を動かすモノだとは考えもしなかった。
「亮さん…!」
「うっ…、く、苦し…!」
「ごめん、嬉しくてつい。」
力を籠めすぎて息が詰まる。
慌てて拘束を解き、向かい合わせに。
「手加減しろ、バカ。」
「気をつける。」
呆れた顔と苦笑い。
「おら、行くぞ。」
「本当に帰るの?」
「勉強する気がなくなったのは本当だ。………その責任取れよ。」
つくづく素直ではない男である。
遊びたいならそう言えば良いのに。
だが奏は嬉しかったらしい。
「当たり前。退屈なんかさせないから。」
部屋を出て、施錠する。
結局のところ、この二人…夏に負けない程アツアツのバカップルなのであった。
蝉の音よりもやかましい、二人の楽しそうな声が放課後の廊下に木霊した。
夏はこれから。
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