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芦田さんのながいながい指がとても好きだ。 その指にしっかりと触れたことはないけれど、一瞬の指先の温度はあたたかくて私の胸を躍らせる。 私よりうんと歳の離れた芦田さんは、出会った時はまだ三十を過ぎたばかりだったまだ。 芦田さんには奥さんがいない。 結婚歴がない訳ではなくて、昔、若くして結婚したけれど、病弱な奥さんは新婚間もなく亡くなったっていうお話。 でも、それを芦田さん本人に聞いた訳ではないから、真実がどうか私にはわからない。 それに無理に聞いたからと言って、芦田さんはきっと困ったような表情で笑うだけなんだろう。 湊さん、なんて、なだめるような口調で。 そんな芦田さんはきらい。 私を子供扱いして、近づけなくして、切なくてたまらない。 私は芦田さんが欲しいだけなのに、芦田さんはそれを望まない。 はっきり口にする訳じゃないけれど、あの人のゆるゆると、私を拒む空気がそれを伝える。 彼は私を嫌いな訳じゃないのに、警戒しているのだ。 私の恋心に。
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