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私のお城に、彼が忍び入ったのはいつだったか。
私は制服を着てた、確かセーラー服だ。夏服。
もう私がお姫様、と呼ばれて違和感のある歳になった頃だったんだろう。
使い古して角の丸くなったカードと、装丁の剥がれた文庫本を受け取りながら、芦田さんは突然話し始めた。
「恩田さんの代理なんです」
…恩田さんというのは、勤続5年の司書さんで、ちいさな可愛いおんなのひとだ。
細いゆびで本を受け取って、受付を済ます。
2年前に学生時代から付き合っていたひとと結婚をして、8ヵ月前に赤ちゃんを授かったことをそっと、恥ずかしそうに教えてくれた。
昨日までは、カウンターで、おおきくふくらんだお腹を、いとおしそうに撫でていた。
代理、と名乗った相手は、垂れた目を細めた。
今のはきっと笑っていたんだろう。
「さくらい、みなとさん、ああ、“お姫様”ですね」
カードの裏面に視線を走らせて、芦田さんは呟いた。
こんな優しくやわらかな声を、私は聞いたことがなかった。
「利用客のおじいちゃんたちがね、よく噂してます、はじめまして」
…私が一言も話さないままに、彼は私をひどく揺さぶった。
確かなきっかけなんてないのに、私はいつの間にか彼に夢中だったのだ。
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