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時代は昭和…
とは言っても、空手チョップの流行し頃から時は流れ、ブラウン管には連日の様に、キャンディーズやピンクレディーが登場していた頃…
ある土曜日の午後、電車の中…
高校二年生の関戸ワタルは、悪友の連光寺オサムと二人で学校から帰宅途中であった。
ワタルは、春に中型二輪の免許を取り、中古の250を購入。
オサムの誘いで、暴走族の集会に行く相談をしていた。
「オサムぅ、オレのKHはノーマルだけど、ホントに走らせてくれるのかよ?」
不安そうに訪ねるワタルにオサムは答えた。
「大丈夫だよ。先輩から一人でも多く誘ってくれって言われてるから。ノーマルで来る奴も少なくないよ。」
集会常連のオサムが言うのだから、大丈夫だろう。
ワタルは少し安心し、その晩の集会で走る事にした。
ワタルは、八王子の駅でオサムと別れた。
ワタルは京王線に乗り換え、オサムは横浜線に乗り換え、それぞれ帰宅する。
ワタルが乗り換えの為、八王子駅の改札に向かうと、背後より突然呼び止められた。
「すみませ~ん!」
声の主は、見覚えの無い女子高生二人。
八王子市内の女子校の制服だった。
(またかなぁ…)ワタルの思った通りだった。
「あの…、いつも電車で一緒に乗っている人に渡して欲しいんですけど…」
明らかに、オサムの事だ。
顔を赤らめながら、その中の一人が手紙を渡して来た。
「はい。渡せばいいのね」
「ありがとうございます」
礼を言うと、女子高生二人は逃げる様に立ち去って行った。
ワタルは溜め息をついた。
「はぁ…。これで三回目だよ…」
4月のクラス替えから1ヶ月半。
その間に三回の伝書鳩である。
何でオサムばかりがモテるのか。
それにしても、直接自分で渡せばいいのに、何故女子高生は間に安全パイを入れたがるのだろう…?
ワタルはムシャクシャした気分になり、手紙を棄ててしまおうかとも思った。
しかしそんな事が、お人好しのワタルに出来るわけも無く、後ほど渡す事にした。
(あんな遊び人と付き合っても、遊ばれちゃうだけなのにな…)
でも、もの凄く羨ましい気持ちで一杯だった。
京王八王子からワタルの降車駅である杉の宮駅までは10分ほど。
その間、電車のドアガラスに映る自分の容姿を見て、自己嫌悪に陥っていた。
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