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杉の宮に着くと、バス停に向かう。
駅から南に丘を一つ超えた所に、ワタルの自宅がある。
窓側の席に座りながら、昼下がりの新緑の並木を眺めていると、先ほどまで陥っていた自己嫌悪が、次第に薄れていった。
オサムとはクラス替えの初日に些細な事で殴り合い、決着が付かず、その後意気投合し、一緒に行動している。
普段のオサムは、勉強こそ苦手だが、頭の切れは良く、話題も豊富。
全身からデキる奴のオーラを漂わせている。
そして、何よりも容姿端麗である。
外見から入る女子高生からは、マークされる事が多い。
電車に乗っていても、数ヶ所から視線を感じ、その視線の先には女子高生…。
オサム本人は、そんな事は意に介さず、常にマイペースで下らない話をしている。
そしてオサムの裏の顔…。
週末は暴走族の集会か、新宿のディスコで過ごし、知り合った女性と、その場限りの関係を楽む。
普通の高校生なら、それを自慢話にするのだが、オサムは決して他言しない。
オサムの裏の顔を知るのは、ワタルだけである。
以前オサムに、何故ディスコで遊んでいる事を内緒にしているのか、訪ねてみた事がある。
「そんな話が広まったら、女を紹介して貰おうって奴らが集まって来ちゃうからサ…。それはそれで煩わしいし、先輩方にも目を付けられて、何かと利用されちゃうのも分かっているからな…」
ワタルとは遥かに違ったレベルの答えに、モテる事が羨ましい反面、大変な事も多いんだなと感じた。
更に「ディスコに来る女なんて、踊りが好きで来ていると言いながら、結局は男を探しに来ている。だから、オレが遊んでやるんだ。満足させてやれば、金くれる女もいるんだぜ。女なんて誰でも一緒だよ」
このオサムの発言には、さすがのワタルも違うと思った。
しかし、全てにおいて未経験のワタルには、反論する術もなく、押し黙る事しか出来なかった。
(その考えだけは、いつか改めさせてやる…)
ワタルは心の中で呟いた。
バスから降り、自宅の庭に停めてあるバイクを見たところで、ワタルは改めて今夜の集会を実感し、気持ちが高ぶり始めた。
部活を辞めて以来、初めて気持ちが熱くなる事かも知れない…。
未知の世界への期待である。
(まぁ、今日は顔見せだけにしよう…)
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