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午後7時半、ワタルはバイクを走らせ、オサムの自宅のある相模原に向かった。
昼間は暑いぐらいに感じていたが、さすがに気温も下がり、今は肌寒いぐらいだ。
途中は信号も少なく、30分足らずでオサムの自宅に着いた。
「オサム~!」
玄関の外から呼んでみるが、誰も出ない。
「お~い!オサムいるか~!!」
更に大声で、オサムを呼ぶと、玄関が開きオサムの母親が出て来た。
ワタルが少しバツが悪そうに会釈する。
「オサムちゃんなら電話中なの。よろしければ部屋に上がって待ってて頂戴」
そう言われて、ワタルは家に入った。
廊下では、やや興奮気味に電話をしているオサムが見えた。
オサムの部屋に通されると、電話の内容が聞こえて来る…。
「ぶざけんなコノヤロー!覚えてろよっ!」
『ガチャン!!』
乱暴に受話器が置かれると、オサムが階段を上がって来た。
「どうしたんだ?」
ワタルが訪ねる。
「今日バイクを貸してくれる約束をしていた奴が、バイクの故障を理由に貸し出しを断って来たんだよ!今更ふざけやがって!」
オサムは、かなり血圧を上げていた。
「それじゃ、オレのバイクに二人乗りで参加するか?」
「それだと、検問の時に捕まり易くなる。ワタルも運転初心者だし、止めておこう…」
色々考えみたが、そのうち面倒になり、今夜の集会参加は見送る事にした。
「オレ、先輩に電話して来る…」
そう言うと、オサムは階段を下り、電話に向かった。
暫くするとオサムの話し声が聞こえてきた。
「はい……、はい……、スミマセン…、この次は……、はい……、失礼します……」
先ほどとは違い、借りてきた猫の様な応対の後、電話を切った。
夜の楽しみを奪われた若者二人。
テレビを眺めながら、タバコの紫煙を揺るがしていた。
と、突然玄関のインターホンが鳴り、オサムの母親の話し声がした。
その後、玄関が開き、階段を上る足音が…。
「ヤバい!タバコ隠せ!」
そう言うと、オサムは灰皿を持ち、ベランダに出た。
ほぼ同時にドアが開き、若い女性が入って来た。
濃いめの化粧にボニーテール、刺繍の入ったボーリングシャツにリーバイスのジーンズ姿。
その顔立ちは、伊藤欄を思わせた。
ワタルは、その女性を見るなり、とっさに目を反らす。
女性は、驚いた顔でワタルを凝視していた。
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