午前零時の湘南道路

4/5
前へ
/59ページ
次へ
  車は国道16号から246、藤沢街道を南下した。   ワタルは、全開の窓から入り込む冷たい風を、後部座席で受けて凍えていた。   だが、時折風に乗って漂う睦美のコロンの香りに、たまらなく女性を感じていた。   「オサム、永ちゃんのカセット入れてよ」 助手席のオサムが、ダッシュボードを探り、矢沢永吉のカセットを見つけてカーステレオに入れた。   「夜のドライブは、やっぱり矢沢だね」   永ちゃんの歌に、睦美とオサムが盛り上がった。   ワタルは、初めて聴く矢沢永吉の歌にシンクロして、完全にハイテンションになっていた。   途中、何度か暴走族や検問に遭遇したが、上手くやり過ごせた。   「アンタ達、暴走族やるのもいいけど、適当に足を洗いなよ。最初は楽しいかも知れないけど、シャレにならない事も沢山あるからね」   睦美が言うと、ワタルは「はい!」と返事をし、オサムは黙っていた。   それは、意味ありげな沈黙であった。     セリカが藤沢を抜けて、小動(こゆるぎ)で海岸に出ると、強烈な磯の香りが立ち込めた。     「お腹空いたね。どこかで何か食べよう」   睦美の提案に、二人は頷いた。    
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加