第一章-刻ハ動イタ-

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  じゃあ早速明日行こうよ、と話もつき、また二人でのんびりと過ごす。なかなか充実した日々を送っているなぁとのびのびした夏休みが心地よい。だけど、たまに寂しくなる。隅っこに小さく穴が開けられていて、そこから少しずく空気が抜けていくような。  あたしの時間は止まっていた。そうだ、中学2年の今頃。あたしの信用が一気に凍り付いたのは。 「あ、彼氏から呼び出しだ。」 「じゃあ出る頃にあたしも帰るよ。」 「ごめん。」 「んーん、彼氏一筋な奏ちゃんが可愛くて仕様がありませんからね。いいわねー。」 「ババくせーよ。そんな言うんだったらいい加減に恋愛しなさいよ。」 「…いい人いないもん。」 「架月がいんじゃん。カッコよくて性格いいのが。」 「架月は親友。もー!そのうちね、そのうち。」 「…心配、してんだから。もったいないよ。幸せな顔見たい。」 「ありがと、ね。」  あたしは少し冷めた目で世を見るようになっていた。客観的に人を見て、客観的に自分を見る。それがいつの間にか癖となって、なかなか人を信用することが困難になっていた。他人と自分の誤差に優越感と拒否感があったのだ。  気付いたら後悔してきたことを繰り返し繰り返し、そのまま現実逃避に陥った。馴染めない現実に目を背けたくて、漫画やアニメなど作られた二次元に夢中になる。余計に人と関わらなくなり、自ら壁を作る。  そんな中に出会ったのが架月という名の異性の親友。架月がぶち破ってきた壁からいつの間にかに仲良くなって、いつの間にか大事な存在になった。奏とは別の心許す友人。きっと彼はホントに強い人だ。  あたしの冷めた心にはまだ希望がある。ううん、案外冷めていないのかもしれない。ただ、世の中の流行のような熱い友情や愛情に怖じ気付いただけ。自分の心に素直になる勇気がなく、他人に自分の心を預けるのがまだ怖いだけ。それだけあたしは大人になりきれていない証拠だ。  分かってる。ホントは自分も人並みの幸せを掴めることは。けれど、あたしの止まった時間が邪魔をしている。迫り来る大人への道に臆病に生きている。  だからきっと、あたしは逃げていた。ずっとずっと2年の間。  周りに対する感情を閉じて、信じるのは自分だけ。という近い状況に。  けれど、止まった時間は命が吹き返すようにまた動き出すのだった。
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