第一話 悲しい時、瞳から溢れる涙は熱くてしょっぱい

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これで俺がここにいた証拠は無い。 「計算通り」 俺は黒く笑った。 ※※※ ヤーサンの事務所を出ると、30分も無駄にしていた。 「ヤッベー!これじゃ家に着くのが遅れちまう」 ケータイの時計はもうすぐ19時を表示しようとしていた。 俺は陸上部に見られたら「金メダルを貰いに行こう!」と誘われるダッシュで帰路についた。 明日の朝刊に『暴力団事務所壊滅』の見出しが出るだろう。 組長以下、組員全員重体の記事と一緒に。 人間、喧嘩と事故にばかりあってると、俺みたいに強くなっちゃうもんだよ。うん。 ※※※ 「ただいま~」 何時もより、やっぱり十分も家に着くのが遅れてしまった。 俺んちは集合住宅の中の建て売り一軒家で、ごく一般的な戸建てだ。サラリーマンの親父の給料だけで買ったにしては立派なんで、文句は無い。 家には無い。 家族には……ある。 リビングに入ると、母ちゃんはテレビを見ていた。 「おかえり~。遅かったね」 テレビからこちらを向いた母ちゃんに、俺は嫌な予感がした。 「遅いって……十分だけだろ」 「十分だって駄目よ、連絡くれないと!」 会話だけ聞けば新婚夫婦の様だが……そんな意味じゃないからね! この人の言ってる意味は!
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