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なるほど、被害者に好感を抱く者はごく僅かだったというわけか。
ちょっとしたトラブルをきっかけに口論になり、カッとなった勢いで刺し殺したという可能性も無きにしも非ず、か。
「そうですか。他に、瓜原さんについて、最近変わった事や違和感を感じた事などは?」
「変わった事…ああ、そういえば」
「何、何ですか」
思わず身を乗り出す竜彦。
「事件のあった時、ゼロヨンの当直は瓜原さんだったんですが、直前に急遽私に替わってほしいという連絡がありまして」
「"ゼロヨン"?」
「ええ。航海士の当直時間は4時間単位でして、一日24時間を4で割った6パートを、私と瓜原さん、それと三等航海士の堀澤さんの計3人で分担するんです。そのうち深夜0時から4時までのパートを略して"ゼロヨン"と呼ぶんです」
「そして本来ならばそのパートの当直が瓜原さんだったにも関わらず、事件当時はあなたがやっていた、というわけですか」
「はい」
訝しげに頷く寿。
「それはまた何故?」
「それが、私も最初は不審に思ったんですが、変に詮索するとまた怒られそうでしたし、それに船長の了承も取ってあるとの事だったので…」
「船長の?」
「はい。後からわかった話なんですが、実際には船長もその話は聞いてなかったようです」
それからしばらく寿の話は続いた。
普段瓜原は滅多に当直の交代はしない事。
ましてや、上の者に黙っての勝手な行動は決してしない事。
そして、電話口での瓜原はいつになく余所余所しかった事。
「うーん」
竜彦は深く唸ると、今までに手帳に記した内容を改めて読み返してみた。
事件当時、この瓜原という男は不可解な行動を取っている。
つまり、彼をそうした行動に駆り立てた、何かしらのきっかけがあるはずだ。
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