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それは、晴れと呼ぶには程遠い天気だった。
市内の目抜き通りから少し外れた道の片隅に寄せられたパトカーの中で、沖 悠太(オキ ユウタ)はハンドル部分に顔を伏せて憂鬱な表情を浮かべていた。
昨日の天気予報では、今日は全国的に晴れ渡って、降水確率も10パーセントだと豪語していたのに……。
沖はフロントガラスに付着した水滴をじっと上目遣いに見つめながら、天気予報士の男を恨んだ。
車のエンジンは切ってあるため、彼の鼓膜には雨粒がボンネットを叩く音だけが届いていた。
沖の隣の助手席には、彼が数ヵ月前に配属されたばかりの新人警官だという理由から、指導員として10歳ほど年上のベテラン警官が座っている。
いかにも幸薄そうな顔つきの彼は、隣で体勢を崩して陰鬱な表情を浮かべる沖を見るに見かねて、やがて低い声で口を開いた。
「何をダラッとしてるんだ。シャキッとせんか、シャキッと!!」
「そんなこと言ったって……」
駄々をこねる子供のような口調で、沖は不満を洩らしはじめた。
「こんな雨の日にこんな所で一日中待機なんて……。体がダルくなるのも当然ですよ」
「何を言っとる。いざとなった時に犯人を取り逃がしたりでもしたら、どうするつもりだ?」
「こんな所……犯人が来るわけないじゃないですか」
沖のもっともな発言に返す言葉が見当たらなかったのか、指導員は低くうなって、それ以上何かを言うのをやめた。
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