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それから数分の間辺りを巡回してみるが、結果は同じだった。
「犯人……来ないですね」
「途中で進路を変えたのか……? とにかく、もう一廻りしてみよう」
指導員の指示通り、沖がハンドルを横にきろうとしたその時、無線スキャナーが再び喋りはじめた。
『…見失った!!……ザザッ…繰り返す、犯人を見失った!!』
『どこで見失った!?』
別の車両の人間が聞き返す。
『4丁目の交差点だ……この辺りは造船地帯だから、隠れる場所が多い……付近の者は十分に警戒するように』
沖は無線スキャナーを凝視していた。
無線の向こう側にいる同業者たちの失態に失望しているというわけではなく、それは今も自身に迫りつつある危険に身がすくんでいる証拠であった。
こわばった表情で彼は言った。
「犯人、拳銃を持ってるんですよね……?」
「『拳銃』じゃなくて、『拳銃らしきもの』だ」
指導員は訂正した。
「でも、もし本物だったら? 発砲許可は……」
「おりてない。今のところな」
沖はアクセルペダルから足をおろした。
確かに、拳銃に憧れて警察に入ったところもあるにはある。
だが、いざ実際に直面してみれば、なんと恐ろしいことか。
沖は遅まきながら、自分が警察官に志願した安直な理由に後悔した。
「とりあえず、港に行ってみよう。あそこは空き倉庫の巣窟だからな」
指導員の冷静沈着な指示に、沖は一度大きく深呼吸をしてから、大丈夫だと自分を言い聞かせて再びペダルを踏んだ。
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