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「プラチナ、」  ニッケルはおずおずとその名を口にした。兄は黙々と観察の準備をしている。制服の濃紺の上着から、翠緑色や紺青、時折白熱燈を反射して煌めく乳白色の鉱物を取り出し、机上に無造作に置いた。返事がないので、ニッケルはもう一度、聲をかけた。 「プラチナ、こゝは理科室だよね。どうしてこんな夜中に、ぼくはこゝにいるんだろう。プラチナも。」 「何でお前がこゝにいるのかは、俺の方が聞きたいよ。」 「え、」  プラチナはそれだけ言うと、再び口を閉ざした。細い銀縁の眼鏡を長い指でそっと押し上げた。実際の視力はどれほどなのか知らないが、プラチナが學校へ上がる頃には既に眼鏡をかけていた。分厚いレンズを常にかけている為、プラチナの容姿が月並み以上に整っていることに氣付く者はいなかった。一部の目ざとい女子生徒が「もしかして」と冗談混じりに噂する程度だ。 「幻燈に行かないのか。」 「幻燈、」 「こゝに来る途中、莫迦でかい天幕を見かけなかったか、」 「……見……た、」 「そこで夜間幻燈会をやるはずだろう、」 「そうだった、」 「何だ、お前寝惚けているのか。」 「そうかもしれない。ねえプラチナ。天幕はどこ、」  ニッケルの問いに、プラチナは呆れたように校庭の外を指した。 「校庭にあっただろ。」 「ありがとう。」  ニッケルは礼を云い、理科室を後にした。先ほどまでいた天幕とは、違う天幕なのだろうか。理科室は校庭に面してはいるが、直接つながっている訳では、当然ない。先刻の天幕が何だったのか、皆目見当もつかない。
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