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朝起きるとゴンスケが死んどった。もう歳だったし、この暑さだで、不慮の死と言うよりは天寿を全うしたという事だろう。天寿を全うしたからといって悲しくねえ理由にはならん。ダディも、ママンも号泣しとったし、俺もやっぱり泣いてまった。
時間は流れるもんだ。犬の生は人間より短い、内容は人間よりもシンプルだ。だから単純に、もっと優しくしてやれば良かったなんて今更になって思う。諸行は無常だわ。と、親父が言っとった。意味は時間は流れる。そういう事らしい。
そうえば、『ライ麦で捕まえて』を読んだ。さあっぱり分からんかった。主人公は同じ歳の奴なんだが、グジグシ考えてみたけれど分かった事と言えばタイトルが歌の歌詞で、その歌詞を間違えて覚えとったよ。って事くらいだ。始めて小説って物を読み終えてみたけれども、やっぱり俺には合わんみたいだわな。
次の日、神山がやって来た。なんだか浮かない表情だ。
「甲子園出れんみたいだな」
「ああ、さっきニュースで見たよ。惜しかったわなあ。神山と同じ中学の奴が泣いとるの見て切なくなってまったよ本当」
神山は机にふらふらと向かい、『ライ麦畑で捕まえて』を見つけた。
「何これ?お前本なんか読み出したん」
「このままじゃいかんと思って、ダディに相談したら渡されたんよ」
「で、どうなんよ?」
「頑張って読んでみたんだけども、さあっぱり分からんかったわ」
神山が笑った。
「まあ、そんなもんだて。鹿山は大学どうするつもり?」
「慶王大学に行くらしいよ」
「自分が行くのに他人事みたいな言い方だな。まあええわ。俺も行く」
「えっ?神山も受験するんか」
「まあ、お前と違って金は包めんから、本気で勉強しないかんで苦労はするだろうな」
それだ。それだわな。大学なんて金で入るもんじゃねえんだて。親父は当たり前のように替え玉するとか言っとったから、俺も当たり前のように受け入れとったけど、それは違うわな。
「神山。俺も金包まんよ?自力で行くで」
神山の口元がニヤリと釣り上がった。
「これだな?」
なんだか神山のその表情を見たら確信を持って言えた。
「ああ。これだて」
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