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数日前にゴンスケが死んでまったよ。あいつは幸せだったんだろうか?ペット火葬場の煙突から昇る煙を見ながらしみじみと考えてまった。でっけえ墓建てたるで、大成仏してもらいてえわな。さあて息子の替え玉は誰に頼もうかしらん?そろそろオファーを出しとかないかんなあ。なんて考えていると、マイサンがノックをして部屋に入って来た。『ライ麦畑で捕まえて』を返しにきたのだ。机に本を返し、横の本棚をぼんやり眺めだした。
「どうだった?」
「さあっぱり分からんかったよ」
背中を向けながらマイサンは答えた。
「まあ青春なんてもんは、さあっぱり分からんもんなんだわ」
マイサンは振り向くと不敵な笑みを浮かべた。
「もう一冊なんか貸そか?」
「まあ小説はええわ。俺には合わんみたいだで。それより」
「なんだ?」
「大学は、替え玉なんかせんで自力で受かりてえんだわ」
こりゃ参った。マイサンがそんな事言うなんて。ライ麦畑は刺激が強過ぎたかなあ。まあ、しかし若いマイサンの未来はマイサンのもんだ。普通の子はそうやって大学に行くわけだし、オレは止めれんわな。
「ええけど、誰のせいにも出来んぞ?」
マイサンは逞しく笑いながら答えた。「分かっとるよ。」
なんだかマイサンの成長に涙が出そうだ。流石はオレの息子だわ。
「包む予定だった金で、ゴンスケにいい墓建てたって」
「受かる可能性はあるんか?」
次期町長の息子が大学行っとらんとなると世間体がちいっとばかり悪いなあ、なんて一瞬考えてまった。
「さあっぱり分からんけど。駄目なら浪人するまでだわ」
ちいっとドキリとしたが、続く言葉を聞いて考えを改めた。
「それが青春!吉と出るか凶と出るか、未来はさあっぱり分からんけど、やるだけの事はせないかん」
ああ、そういうもんだ。世間体を気にする自分が恥ずかしく思えた。未来も、青春なんてもんも、さあっぱり分からんもんなんだわ。それを怖がってはいかんな。多分次期町長にオレがなる事は限りなく堅いが、それだって終わってみんと分からんもんだ。けども怖がらずやるだけの事はせないかん。ちいっと今からでもコツコツ近所に金をばら撒こう。青春ってのはそんなもんだで。マイサンもオレも、まだ青春真っ盛りだわ。
完
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